1. 大麻合法化の波及と新たな課題
世界各地で大麻の娯楽的使用に対する法規制が緩和されています。合法化には様々な背景があると見られ、一概に合法化自体を批判することはできない中、人権や労働倫理に関する新たな課題も生じています。2021年3月に大麻の所持と栽培の禁止は違憲であるという判決が出たメキシコにおいて事業を展開する日系企業にとっても、新たな雇用関係上の課題となってくるでしょう。
2. イリノイ州におけるJETROの法務セミナー(2019年実施)
先行して大麻が合法化された地域での事例を参考に、日本企業がこれらの課題にどのように対応すべきかを検討していく必要があります。その一つの事例として、少し古いものになりますが2019年に行われたイリノイ州でのJETROによる法務セミナーの記事は参考になるかもしれません。イリノイ州では2020年より大麻の娯楽的使用が合法化されました。これを受け、JETROは日系企業を対象とした法務セミナーを開催し、雇用主としての対応について解説しました。(参考:https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/07/825c7ece4a353d47.html?_previewDate_=null&revision=0&viewForce=1&_tmpCssPreview_=0%2F)
3. 就業規則の再確認と明文化
セミナーでは、雇用主が留意するべき内容の1つとして、従業員ハンドブック(就業規則)の再確認を挙げていました。就業中の大麻使用を禁止する場合には、それを規則上で明文化するなどの対応が必要だとされています。これは、メキシコにおいても有効な対応策となるでしょう。
4. ドラッグ・テストの適正化と従業員の人権
また、同セミナーでは、雇用主が従業員に対して行うドラッグ・テスト(薬物検査)の手続きについても言及がありました。それによると、明らかな理由がある場合のみ、またはランダムにテストを行う場合には、従業員を恣意的に選択するなど差別的に扱ったり、従業員のプライバシーを不当に侵害したりすることのないように注意が必要です。
5. 日本人駐在員と日本法の適用
さらに、同セミナーでは日本人駐在員の大麻使用についての質問がありました。それに対し、講師は日本国民は外国においても日本法の適用を受ける場合があり、そのため、外国においても、該当する国の法律および日本法の双方が適用される可能性があると説明しました。
6. メキシコにおける日系企業の対応
メキシコにおける日系企業は、メキシコの法律と日本の法律の両方を遵守し、雇用者の権利を尊重しながら、合法化された大麻使用に対応する必要があります。そのためには社内規定の明確化から始まり、専門家との相談を行いながら適切なドラッグテストの実施、そして雇用者の人権とプライバシーの尊重を維持できる方法を各社が模索していく必要があります。
7. 複雑な課題と新たな可能性
大麻の合法化は複雑な課題を提起しますが、それは同時に新しい対応策を模索し、人権を尊重した企業規則を新たに開発する機会とも考えられます。この過程は、組織間の信頼をより高め、複雑なメキシコの労使問題の改善の一手となる可能性もあります。これからのメキシコにおける日系企業の道標となるでしょう。
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